東京高等裁判所 昭和46年(ラ)384号 決定
しかし、原審の昭和四六年四月一〇日抗告人に対する審尋調書の記載によれば、抗告人(昭和二一年一二月三〇日生)は昭和四四年五月頃から昭和四六年二月二五日肩書住所に転出するまで引き続いて前記大田区西六郷二丁目九番一二号(世帯主)父中谷彦一方に、母喜代と共に同居して居住し、その間他に転出したことは全くなかつたのであるが、前記昭和四五年六月一九日競売期日通知書送達の際は、抗告人の父である右中谷彦一が執行官に対して抗告人の居住を隠蔽し、抗告人が転居不明である旨虚偽の陳述をし、同送達を不能とさせたものであること、そもそも、抗告人は、昭和四六年二月中旬右中谷彦一から知らされるまで登記簿上自己が本件建物の所有者となつていたことさえ知らなかつたというのであるが、前記弁護士万野光彦に委任して前記調停事件ならびに不動産競売手続停止申立事件(本件抗告事件も)の各申立をしたことはなく、これらは一切右中谷彦一が右万野光彦に委任して申立てていたものであること、しかも、前記審尋に際して、右の経過について質間された抗告人は、父中谷彦一の右各所為ならびに右各申立について今更別に異議のないことを表明していることが認められる。
以上の事実によれば、抗告人に代つて代理人万野光彦に委任して前記調停事件および不動産競売手続停止申立事件ならびに本件抗告を申立てた抗告人の父中谷彦一が、本件競売事件の進行を妨げる目的から、抗告人がその送達の場所から他に転出した事実がないのに、執行官を欺いて抗告人に対する昭和四五年六月一九日競売期日通知書の送達を不能ならしめ、原審をして同期日の変更を余儀なくさせたものと推認するに難くなく、その結果、原審をして公示送達の許可をするに至らしめたものと認められ、また、抗告人と同居する右中谷彦一においては原審における本件競売期日の進行状況を逐一知つて、その対策を講じていたことを推認することができる。
以上の事実関係のもとにおいては、たとえ、本件公示送達許可後にたまたま抗告人の前記住所を記載した前記不動産競売手続停止決定が原審に提出されていたところで抗告人において抗告理由所論のごとく本件公示送達の違法、不当を主張することは、信義則上到底許されないものである。
(柳川 後藤 平田)